きもの(幸田文)

 着換えがはじまった。姉自身で着たものは、腰のものと足袋だけで、肌じゅばんまで着せられていた。先生と助手とは殆ど何もいわないが、それで呼吸はあっていた。見る見る着せつけられ、出来上がっていき、姉は花嫁になった。もとのおばあさんの部屋へ行くために、姉は褄をとって歩かせられた。 「ご器量はいいし、お姿もいいし、こういうお嬢さまですと、私共の仕事もらくですし、その上つくりばえがしますし、それにもう一つ、いいお召物ですねえ。私ども沢山のご衣裳を拝見しておりますが、おきれいというのはあっても、立派というのは少うございます。この松はほんとに見事な貫禄が出ております。このごろはぼつぼつ、おうちかけを召す方もありますが、この松はおさえますねえ。」  中の姉は普通の友禅を、袖だけが中振袖くらいの長さにして、新調してもらっていた。おばあさんの考案である。一反では間に合わないが、振袖よりずっと安くあがるし、端尺にあまった布はなににでも使う道があるという。つつじの模様だし、袖の長いのがはなやかだった。